スウェーデン1日目
ストックホルムの歓迎
北欧の玄関口、ストックホルム・アーランダ空港に降り立ったノリとカロリーナ。空港のガラス越しに見える澄み切った空と、整然とした街並みが二人を迎えた。
“車椅子でもこんなにスムーズに移動できる空港は初めてだ…”とノリが感嘆すると、カロリーナは微笑みながら答えた。
“北欧はバリアフリーの先進地だからね。これからもっと驚くことが待っているわ。”
二人は地下鉄駅に向かう。ストックホルムの公共交通機関は、車椅子対応が完璧だった。エレベーターや低床電車、広い車椅子スペースが至る所に備えられている。
“僕たちみたいな旅行者でも、こんなに自由に動けるのは本当に素晴らしいね。”とノリ。
カロリーナは同意しながら、スウェーデン語で駅員に感謝を伝えた。
グローナルンドの歓喜
午後には、ストックホルムにある世界で最もバリアフリーと言われるテーマパーク「グローナルンド」に向かった。エントランスで出迎えたスタッフは、笑顔で二人に施設案内のパンフレットを手渡した。ノリはその中に、車椅子対応アトラクションの一覧が記されているのを見て感動した。
“全部楽しめるんだね!”と目を輝かせるノリに、カロリーナはうなずいた。
まず挑戦したのは観覧車。ノリが座る車椅子ごとゆっくりと乗り込める設計に驚きつつ、二人は上空からのストックホルムの絶景を楽しんだ。眼下に広がる美しい街並みを眺めながら、カロリーナがつぶやいた。
“ノリ、こういう景色を一緒に見られるの、嬉しいわ。”
ノリは少し照れたように笑い、“僕も。こんな素敵な体験ができるなんて思ってもみなかった。”と答えた。
次に挑戦したのはスリリングなジェットコースター。スタッフが手際よく車椅子を固定し、安全ベルトを調整してくれる。勢いよく走り出すと、ノリは歓声を上げた。
“すごい!これ、最高だよ!”
風を切る感覚と、体中に響くスピード感。カロリーナも笑い声をあげ、ノリとハイタッチを交わした。
その後も二人はシューティングゲームやメリーゴーラウンドなど、すべてのアトラクションを満喫した。特に、ノリが一番楽しんだのは水上ライドだった。水しぶきが顔にかかり、二人で大笑いしたその瞬間、ノリはふと自分の胸が温かくなるのを感じた。
“カロリーナ、僕、今すごく幸せだよ。こんな時間を過ごせるなんて。”
カロリーナは彼の言葉に応えるように微笑み、“それは私も同じよ。”と静かに答えた。
恋の予感
グローナルンドでの歓喜に包まれた一日が終わるころ、夕焼けに染まるストックホルムの街を歩く二人。ノリはふとカロリーナの横顔を見つめた。
“カロリーナ、君がいてくれて、本当に良かった。”
その言葉にカロリーナは足を止め、ノリの目を見つめた。
“私も、ノリと一緒にいると、自分がもっと強くなれる気がするの。”
二人の間に一瞬の静寂が流れる。その沈黙が何か特別なものを含んでいることを、お互い感じ取っていた。
スウェーデン2日目
Independent Living Institute(ILI)との出会い
翌日、二人はストックホルム市内で福祉団体「Independent Living Institute(ILI)」を訪れた。この団体は、障害者が自立して生きるための支援活動を行っていることで知られている。到着すると、スタッフのエヴァが笑顔で迎え入れてくれた。
“ようこそ、ILIへ。ここでは、障害者の方々が自立し、自由に生活できる社会を目指しています。”
エヴァはまず、ILIの歴史と理念を紹介した。この団体は1983年に設立され、障害者自身が主体となって活動を展開している。政策提言や教育プログラム、バリアフリー住宅の設計支援など、多岐にわたる取り組みを行っている。
“例えば、このプロジェクトを見てください。”
エヴァが指差したのは、パネル展示の一角だった。そこには、障害者が自由に使えるカスタマイズ可能な車椅子や、障害者向けの交通アプリが紹介されていた。ノリは目を輝かせながら、展示を見つめた。
“こういった技術があれば、もっと自由に動けるね。”と彼が言うと、エヴァは頷いた。
“その通りです。技術と政策が融合することで、私たちは社会全体を変える力を得るのです。”
また、カロリーナは「パーソナルアシスタント制度」の説明に感心していた。この制度では、障害者が自らの生活スタイルに合わせてアシスタントを選び、雇用することができる。
“自由に選べるなんて素晴らしいわ。こういう仕組みがあると、本当に生活が変わるわね。”
ノリも同意し、“まるで夢のようだね。僕たちの国でもこういう取り組みがもっと広がればいいのに。”と感想を漏らした。
気づきと未来への希望
ILIでの訪問を通じて、ノリは深い感銘を受けた。障害者がただ受け身になるのではなく、自分自身の力で生活を築いていく。そのためのツールや支援が提供されているスウェーデンの社会に、彼は新たな希望を見出した。
“カロリーナ、僕、この旅を通じて何かもっと大きなことを学びたい。”
“それなら、一歩一歩進んでいきましょう。”カロリーナはノリの手を軽く握りしめた。
ストックホルムの街を歩きながら、二人の心にはスウェーデンの風が吹き抜けていた。それは、自立と自由、そして希望を象徴する風だった。
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